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「場所の精霊に尋ねよ」~地域アートフェスティバルの先駆者、芹沢高志さんの講義を聴いて~

 今年、瀬戸内国際芸術祭を始めとする数々のアートフェスティバルを観た中で、最も興味を持ったことの一つは、優れたアートフェスティバルの中心人物となる人々のこれまでの歩みや、そこから生まれたアートに対する姿勢だった。「BIRAKOビエンナーレ」の中田洋子さん、「見っけ!このはな」の藤浩志さんや、永田宏和さんなど話を聴ける人には話しを聴き、彼らの言葉を何らかの形で出版しようと動き始めていた中、偶然知った芹沢高志さんの公開講座。この夏、遠藤一郎さんを中心に京都で繰り広げられた「わくわく京都」の母体となる「別府現代芸術フェスティバル2009『混浴温泉世界』」の枠組み作りをした芹沢さんの、アートフェスティバルの根幹に関わる数々の話を紹介してみたい。別府混浴温泉世界画像2

89年から始まる東京四谷の地下にアートスペースを併設した禅寺・東長寺での蔡國強、ジョン・ケージらの展覧会プロデュース、02年の帯広競馬場厩舎地区での「とかち国際現代アート展『デメーテル』」の総合ディレクター、05年の横浜トリエンナーレ保税地区でのキュレーションなど、この20年間、町に出て行くアートの動きに最もリンクしてきた芹沢高志さん。そんな芹沢さんが、昨年総合ディレクターとして開催した「別府芸術フェスティバル」は、その後、多くの若手アーティストたちのつながりを生み出し、京都、柏などの地域を巻き込んだ動きに展開している。そんな芹沢さんの公開講座が京都精華大学で行われるということで早速聴きに行ってきた。

事前資料として読んでいた『混浴温泉世界-場所とアートの魔術性』という本で、グラビアタレントとしてしか認知していなかったインリン・オブ・ジョイトイさんの別府の歴史性と、彼女の女性性を融合させた作品に圧倒されていただけに、そんなアーティストの才能を見抜いた人が一体どんな人物か強い興味を持っていた。遅れて着いた教室で見た芹沢さんは、対象と適切な距離を取り、状況を的確な言葉に置き換えていく落ち着いた雰囲気の人だった。すでに始まっていた講座では、建築分野で場所性と建物の関連を掘り下げていた芹沢さんが、東長寺の設計に関わっていく中で、「その後の人生を変えてしまう」ギャラリーでなない「半パブリック」な空間で展覧会やワークショップを開いていくことになる経緯を説明。芹沢高志さん公開講座画像1

その後、「場所が歴史性を持っている所に組み合わせた見せ方ができないか」と考えていた時、「とかち国際現代アート展」の話が舞い込んで来た。それならと、「植民地的にアイヌの人々の価値観や考えを変えてしまった場所」、「馬と人との関係」といった北海道や十勝という場に根ざした要素を盛り込み、帯広競馬場厩舎地区でアートフェスティバルを開催。05年にはその時の参加アーティストだった川俣正さんが総合ディレクションを行った横浜トリエンナーレで、保税倉庫群が立ち並ぶ「日頃は立ち入り禁止の隠された土地をアートのための空間に変える」という思いを実現しようとキュレーターの1人として参加した。

「現場は好きなんですけど、こういうアートプロジェクトは疲れるんで、3年、5年ぐらいでしかできない」と笑顔を見せた芹沢さんが、次に取り組んだのが、昨年の「別府現代芸術フェスティバル2009『混浴温泉世界』」。人生で2度目に訪れた別府の町には、空襲を逃れたことで残された明治、大正、昭和の建物が入り混じった景観や、「温泉としては世界一の湯量を誇り、100、200メートルに一軒の割合で銭湯が点在し、人間関係や人生が濃縮している」という「特異」な状況。さらには「日本全国で見られる風景となったシャッター通りが広がっている」地域疲弊の問題が待ち構えていた。別府温泉画像1

「今、日本の地域が抱えている問題は、重要な問題をたくさん含んでいる」という芹沢さんにとって、「アートが直接、地域活性化につながるとは考えない方が良いかもしれない。しかし半ば詐欺師的な能力も含めてアートは可能性を持っている」という考えに基づいて8名の海外アーティストを招聘。彼らの全ては、「生まれ故郷に今住んでない、旅人としてやって来た人」であり、その意図は、「多文化の中で切実に生きていかなければならない彼らには、そこで生き抜くための場所やコミュニティーの特質に気づく力に長けている」というものであった。また「別府側を説得するのに1年かかった」という「混浴」の言葉には、「性別や年齢、国籍や人種の違いを乗り越え、生まれたままの裸で武器を持たず、一緒につかる温泉の多文化共生」という思いを込めた。

これまで一貫して「場所とは何なのか」を追求してきた中で辿り着いたものは、18世紀のイギリスの詩人アレキサンダー・ポープが建築の助言として述べた、「人はすべて、場所の精霊に尋ねるべき」という言葉だった。それに従い、海外アーティストや国内の若手作家たちが「アーティストの直感によって場所にアートを仕掛ければ、近代的生活によって特定の場所の意味性や力が抑圧されている地域に何かをもたらす時もある」という状況をこのフェスティバルで作り出した。若いアーティストが別府に拠点を移したり、行政が重い腰を上げ、全面的なバックアップを表明するなど多くの変化を生み出した今回の動きを、「長い目で見れば成長の限界に達していくこの惑星上の存在が抱える問題であり、多くの課題に対して新しいリノベーションを考えつけば、人類全体に役立つ」と芹沢さんは語った。別府混浴温泉世界画像3

「縮小の仕方に我々の創造力とイマジネーションをぶち込まなきゃいけない」と力を込めた芹沢さんは、この講座を主催した建築コースの学生に向かって、「建築はやりにくい時代にきているが、色んな可能性が我々にはあって、あるものの質を変換、改良していくというのも建築家の役割の一つであり、建物に関するだけが建築家なのかというのもある。別府に乗り込んで考えていく時、築100年の住宅の力を借りて建築の中に興味や知識を持ちだしていけば、生きてること、居住と関連していくとこを学べる新しい職能なんじゃないかというのもある」と未来への希望を込めた言葉を述べた。

講義の最後に行われた質問の時間には、アートフェスティバルが急増した現状についての質問に、「経済界が渇望している活性化への思いや期待が高まっているが、ダイレクトに経済活性化に寄与していくとは思わない。地域を生き生きするために活用していくことは大事だけれど、これまで地域のアートはお金や票になんないと言っていた人も『地域が活性化するかもしれない』と言いだしている中、アートプロジェクトを展開する我々が立ち位置をしっかりしていないと見えにくくなってしまう」と回答。その意義については、「構造と機能を一致させようとする動きが80年代ぐらいからあって、しかしカップリングが一致し過ぎると関係が硬直していく。その時そこに『ゆらぎ』が入っていくと、その3つがやり取りや対話をして、何も起こらなくなっていたものがかき回されていく。アーティストなんて面倒くさい役割を(社会が)生かしているのは『ゆらぎ』の要素がある」と述べた。芹沢高志さんの翻訳書画像1

さらに評価する基準については、「いいプロジェクトは次のプロジェクトを生むプロジェクトだと思う。予想しない何か他のものを誘発して次のプロジェクトを生んでいくか、思っていなかったことがいかにたくさん生まれて建設的な次のプロジェクトなっていくかにある。原因や結果、因果といったことはないと歴史家のトインビーは言っていて、挑戦と応答、チャレンジし反応していく。チャレンジに反応して、その反応が次の反応を生んでいくような終わることのない対話が大事だと思う」と語った。最後の質問者が「このような考えや視点を持った芹沢さんはどのようにして作られたのか」と尋ねると、芹沢さんは「執着している関係ないことや気になっていることの沈殿がばばっと集まって何かが生まれてきた感覚を何度か経験していて、コンセプトを通すというやり方ではない、土地とアーティスト、住んでいる人との対話からゆらゆらと出てくることを大事にしているというのはある」と回答し講演を締め括った。

2時間に及ぶ講座を必死でメモし続けた手はかなり疲れ切っていたし、それ以上に頭が有益な情報の連続に圧倒され、オーバーヒート寸前だった。しかし、このような講座が行われた空間に同席し、自分の理解の限界まで知識を吸収できたことに対する深い満足感はちょっと得がたいものだった。その後、この講座の関係者の方々とのアフタートーク的な時間を持てたことや、場所を移して行われた芹沢さんを囲んでの懇親会でも様々な話を聴けたことは、自分にとっての「反応」であり、その「反応」に対するさらなる「反応」としてこの文章を書いているように思う。幾つもの終わることのない「対話」が生まれ、多様な価値観を認め合える本当の意味での豊かな社会がいつかこの国に訪れることを切実に願う。

芹沢高志さんのこの日の公開講座がアーカイブ化されたUSTREAMのアドレス
別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」のウェブサイト
芹沢高志さんのインタビューが掲載されたTokyo Sourceのページ
未来美術家 遠藤一郎さんのウェブサイト
ウィキペディア 京都精華大学
ウィキペディア 別府温泉
ウィキペディア 蔡國強
ウィキペディア ジョン・ケージ
ウィキペディア インリン・オブ・ジョイトイ
ウィキペディア 川俣正
ウィキペディア アレキサンダー・ポープ
ウィキペディア アーノルド・J・トインビー
アマゾン 『混浴温泉世界-場所とアートの魔術性』
アマゾン 芹沢高志さんが翻訳した『宇宙船地球号操縦マニュアル』(ちくま学芸文庫)

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コメント

No title

こんばんは。
近江八幡での青木さんのインタビュー時に同席させていただいていたワタナベです。先日はありがとうございました。
先日の記事ももちろん読ませていただきましたが、今回の記事も大変興味深かったです。
面白いお話を報告してくださってありがとうございました。

月人さまへの返信

月人さま
コメントありがとうございます。
また、青木さまのインタビューではこちらこそお世話になりました。
今回の文章は芹沢さまの話す内容があまりに凄くて、その内容を多く
の人に伝えたいという思いで書きました。
ですのでその凄さが少しでも伝わっていたのなら嬉しいです。
近江八幡から1月ほどたちましたが月人さまがお元気そうでなにより
です。
またどこかでお酒を酌み交わすことができればいいですね。

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プロフィール

阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメールabekaheki@gmail.com
またはお問合せtwitterまで。

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