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「苦しい事情は分かるけれども」~木津川アート2010を巡って~

 本当なら3日に訪れる予定だった木津川アート2010に遅ればせながら行って来ました。最近、様々な町おこし系アートフェスティバルを訪れているだけに、その良し悪しや特徴といったものがかなりはっきりと見えるようになっていますが、この木津川アートは、その様々な面が一通り見える典型的なイベントのように思えたので、それについて書いてみたいと思う。木津川アートちらし画像1

まず、このイベントを始めようとされた方から聞いた話では、公募で選ばれた作家たちでさえも、ほぼ手弁当状態で制作を行ったという話で金銭的にはかなり苦しい状況にあるということだった。夏から秋にかけて巡った幾つかのイベントも基本的には同じ状況で、それを分かっていながら作品の質は玉石混交でと解説し、だから玉の多い少ないに感情的になることは大人げないのかもしれない。

第一、こういうアートフェスティバルを知れば知るほど、イベントを一から立ち上げる大変さには本当に頭が下がるし、そんな苦労をしていない人間が、そういったイベントについてとやかく言うのが果たして正しいのかとも思う。しかし、そんな事情も知らずに来た人々に「やっぱりアートって分からないものなんだ」、「つまらないものなんだ」という風に思われることが嫌なのではっきり言いたいと思う。木津川八木邸画像1

やはり全体としての、個々の作品の持つクオリティーや完成度、鑑賞者に訴える力というものが弱いのではないかと思う。これは、金銭的にも苦しい制作を強いられた作家たちに対しては厳しい言い方になるのかもしれないが、折角、このようなアートが多くの人々に開いた状況が巡ってきているのだから、その機会を結果的に減らしてしまうことになるような作品を提示すべきでなないと思う。

正直、「無料で巡れるイベント」でもあるし、今回、多数巡っていた近隣の中高年の方々のように、これまで入りたくても入れなかった八木邸内部や鹿背山ハイキングが目的で、アートはそのついでに見ておこうという気持ちでいるならそれでも良いと思う。しかし、もしアートを「目的」として活動している作家が、見る人に何の印象も残さないまま、さらに酷い場合にはアートに悪い印象しか残さないような「ぬるい」作品を展示することは、自分の首を絞めるだけでなく、真摯に作家活動をしている方々に対しても迷惑なのではないか。木津川林さん作品画像1

今回の展示会場の中では小原典子さん、林直さん、竹居和彦さん、松嶋真さんらの作品と、最も良作の多かった南都銀行旧木津支店で、林さんが語った、「アートは自由だから、様々な方向性や楽しみ方があっていいと思う」という意見には賛成なのだが、だからといってあまりにも表層的で、自己満足以外の何ものでもないような作品を提示して、「アートの自由さやある種の難解さ」で言い逃れしようとする作家がこれまでの歴史的に見ても多かったのではないか。

また今回のイベントをはじめ、鑑賞者に独特の「ワクワク感」を感じさせることのないイベントに共通することは、そのイベントを主催する主催者側の人々のアートに対する強い信念のようなものが欠けていることが多いように思う。具体的な例で言えば、アートが町おこしなどで力を発揮する場合、なぜそれが力を発揮するかを考えると、様々な属性を超えた人々の交わりや、作品とその場との接触によって独特の融合が生じ、その場でしか生まれ得ない熱量や価値が根付くからこそ地域の人々やアーティスト、さらには一般の鑑賞者が生き生きとするのだと思う。信楽焼たぬき画像1

しかし今回の展示を見た限りでは、その場所でなくても、ギャラリーでも、どこで展示しても変わらない作品。詳しく言えば、作品の持つクオリティーや熱量や文脈によって生み出される空間との融合がなく、互いが分離したままで存在する作品が多かったように思う。そしてそんな場や状況との切磋琢磨が感じられなかったことは、作家だけの責任というよりも、その場を設定し、作家に働きかけた主催者側の力量不足やアートに対する確信のなさが大きな理由ではないかと思う。

今回が初開催という同じ条件で、近隣の奈良市を中心に先月行われた「奈良アートプロム」というイベントは、行政との連動や資金もなく、運営の未熟さに多々問題を抱えながらも、地元の作家やアート関係者を掘り起こし、今アートで何かを伝えたいという切実な気持ちが伝わってくるイベントとして好印象を残した。そこには人と人とを介して、また作品と人を介してしか伝わらない極めてアナログな熱量の伝達が成立していたからこそ若い作家たちの「才能の芽吹き」を感じることができたのだと思う。木津川襖絵画像

アートイベントを行うことが町おこしとなるということは幻想で、作品という一個の人間の創り出した何ものかが、時として別の誰かの心を動かし、周辺の空間を変質させる装置となる。そういった可能性を秘めたアートの力は、より厳しい現実に向かい合わなければならないこれからの社会において、より多くの人に何かしらの救いをもたらしてくれるかもしれない。そして、そういったアートの力だからこそ、無闇に乱用するのではなく、時と場所を見極めて、その力に確信を持った人々が活用すべきなのだと思う。

木津川アート2010ホームページ
木津川アート2010ブログ
木津川アート2010twitter
先月終了した奈良アートプロムのウェブサイト

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阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメールabekaheki@gmail.com
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