文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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「なぜ青木美歌さんはBIWAKOビエンナーレであれほどの作品を創れたのか」

話を聞いていく中でまず最初に驚かされたのが、古い廃車を使った大型作品の経験はあっても、今回のようなアートフェスティバル内でのインスタレーションが初めてだったということ。それなのに『未生命の遊槽』では、本部の蔵の中にあった長持を中央に配置して子宮や棺桶のイメージを浮かび上がらせたり、廃屋という場にあまりにもマッチした作品空間を作り上げるなど、状況の活かし方や作為と無作為のバランスに只ならぬ印象を受けたと述べると。
作者の青木さんは、まるで場を使った表現を何度も重ねてきた人のように、「空間を見て、空間が持っている時間とか人の流れとか、歴史としてどういう風に使われているかを見て作品を作りだします。作品に合った空間を見つける時もあるけど、今回はお家を何個も何個も下見して、どこでも良い訳じゃなく、イメージを決めて、そこの空間を肌で感じながら決めていきます」と回答。これまでの展示自体をインスタレーション的に設営してきたことが今回の完成度に繋がっているらしい。

他にも「小さい時から絵を描くのが凄い好きで、4歳ぐらいの時から将来は絵の先生になる」という目標を持っていた青木さんは、小学3年から始めた絵画教室通いや芸大受験のための予備校に通っていく中で、「絵の中に自分が入りたいなと思った。自分がその空間の中に入りたい」という気持ちを強く持ち、生まれ育った北海道から進学のために東京に出てきた時は、舞台美術や映画美術が学べる空間デザイン系の学科のある大学を選択。「空間を作るインスタレーションには興味があって、前から今回のようなものがしたかった」と空間に対する興味が強かったのだという。
しかし、一度入った大学では、「やっぱり自分でものを作りたいというのがあって」と違和感を感じ、「テキスタイルから木や石やガラスまで色々な素材を学べる」という武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科に再入学。そこで最初に行われた実習の中で「ああ、これしかない」と思ったというガラスという素材に出会ったのだという。そこで、一体ガラスの何にそこまで惹かれたのでしょう?と疑問を投げ掛けると、「最初に作った作品講評の朝、転んで作品を割っちゃったんですよ。ちゃんと作ったものがバラバラになってしまって、ガラスって本当に割れてしまうんだなと感じて」と現在の作品も表れた儚さや繊細さに通じるエピソードを語った。

また「何より透明なところが好きで、あるか無いか分からないところとか、存在の危うさとか」という作者に、ガラスを選択した理由は氷や雪といったものが身近にあった影響があるのでは?と尋ねると、「自分では考えたことはないんですけど、当り前にあった雪とか、氷の透明さとかつららとか肌で感じているんだと思うんです。色をガラスにつけないし、つけたくない理由はそういうところにあるのかもしれません」と照明に使う淡い青や静けさが似合う作品が、自身の育った環境に影響されている可能性についても語った。
「ガラスに出会った時から、もう作家になろうとしか思ってなくて」という学生生活の中で、様々なガラスの技術を習得。卒業制作で作った『あなたと私の間に』という作品では、「テーブルや窓といったものがある当り前の生活をしている二人の間に、目に見えない何かが根付いて育っている」という状況をその頃からモチーフとしていた菌糸や胞子の造形物を使って表現。「反響も良くて実際にお仕事をいただいたり、今まで見てもらっていた先生もびっくりしてらした」という作品は卒業制作優秀賞を受賞。「自分の作品だといえるはじめての作品」という手応えも感じた。

その写真を見ながら、わずか4年で造形的にもコンセプト的にも優れた作品が作れた理由は何なのでしょう?と聞いてみると、青木さんは少し考えた後に、「劇団でお芝居をやっていたことが大きいかもしれません。舞台美術を最初はやっていて、それで出るようになって。体を動かしたり演技したりして、普通は動かさないような筋肉を使ったり。あと見せるということとか、舞台に出る高揚感とかライブで表現したことも大きいと思います」と今回の作品にも共通する作品配置の上手さや光の使い方、暗幕の先に広がる別世界性などを納得させる答えを述べた。
さらにこれまでに影響を受けてきた作家や作品について尋ねてみると、「あんまり影響を受けた人とかいなくて。大学に入ってからは博物館とかの方が影響を受けたのが多いですね。骨とか図鑑とか顕微鏡で色々見たりとかしてました。絵を見て何かにというよりも顕微鏡とかで見たものの方が影響は大きいと思います」とモチーフや素材にしている菌糸や胞子、シャーレや注射器といったものがそういった経緯で用いられ、特別な愛着があることを伺わせた。

「もう一瞬であの構成が浮かんで、作り終わってすぐは良くわからなかったけど、時間を置いて見ると良いものができたと思う」という今回の作品については、「次は家をやりたいと思っていて、何百年の間生命の繰り返しや受け継ぎががあったああいった建物が持つ生だけでもなく、死だけでもない。そういう循環を表現できないかと思って。着物を入れる長持が子宮のようにも棺桶のように見えて、室内には魂のような精子のようなものがプカプカしている」という極めて幻想的な空間を作り出した。
作者のこれまでの経験や目指していたものが一つの作品として結実した今回の作品。好評を受けてビエンナーレ期間以降も約1ヶ月間の展示の延長が決まった。その決定に笑顔を見せながらも、作者としては次の段階へ進むために動きだしている。「今は次の個展の予定を日本では入れてなくって、海外に滞在できるコンペとかに色々応募したりしてて、1年から3年ぐらい色々な国に行ってみたいと思っています。日本で生まれ育って、日本の宗教、死生観が出てきたので、これからも色んな国の色んな生命観を見たい」とより広がりのある舞台での活動を見据えている。
青木美歌さんのウェブサイト
青木美歌さんのtwitter
11月7日に終了したBIRAKOビエンナーレ2010のサイト
ウィキペディア サイトスペシフィック・アート
ウィキペディア インスタレーション
アマゾン 青木美歌さんの作品がジャケットで使用された『ウーヴン』
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