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「天の秘密を知った場所」~瀬戸内国際芸術祭2010「直島」を巡って~その3

 本村地区にある6つの「家プロジェクト」を見終わって、次に向かったのは美術館エリアとも呼ばれているベネッセアートサイトエリア。宿泊者のみ見学が可能なオーバルを除くと、3つの美術館があるこのエリアは、結論的に言うと、美術館よりも、そこから見える海や空、夏の日差しや風といった、そこのある自然そのものが素晴らしい。そういった考えを持つ者にとっては、地中美術館や李禹煥(リ ウファン)美術館よりも、建物が外界とのつながりを持っているベネッセハウスミュージアムの方が良い美術館ということになる。かぼちゃ

しかし、それだけでなく、確かに地中美術館ほどには名の知れた作品が見れるわけではないが、幾つかの作品は個人的には地中美術館の作品より強い印象を残すものがあった。具体的にその作品を挙げていくと、今回初めて見た作家、デイヴィッド・ホックニーは『ホテル・アカトラン 中庭の回遊』で絵画作品としては極めて独特の、視点を円環させる不思議なうねりを作り出すことに成功しており、そのうねりはどれだけ見ていても飽きない感覚を見る者に与える。

後で同じ作家の作品と気づいた『木と水が映ったプール』も『ホテル・アカトラン』ほどではないにしろ、見る者にきちんと何かを残す作品であり、この作家自体に好印象を持った。他にも一見焼き直し的作品と油断していたが、そのお尻から背中にかけてのフォルムを見ていくとこれは凄いと見直したイヴ・クラインの『青のヴィーナス』。もしこのヴィーナスが「クライン・ブルー」で塗ってなければきっと素通りしたであろうと考えると、小さなインパクトを受けた良作だった。青

時間や侵食といった、自然の力を作品の中に取り込んだ柳幸典さんの『ザ・ワールド・フラッグ・アンド・ファーム』も素晴らしかった。白蟻に182カ国の連結した国旗を蝕ませるというアイデアによって、国家という存在も侵食され滅びゆくものだという鋭い批評性も兼ね備えた作品で、すでに侵食されどこの国とも分からなくなった国旗や、作品上段に佇んでいた旧ソ連邦の国旗を見ていると、さすがに感慨深いものがあった。

3つの美術館で見た作品の中で、最も強いインパクトを受けた作品は『ザ・ワールド・フラッグ』のすぐ横のテラス的空間に置かれた安田侃(やすだかん)さんの『天秘』。ガラス戸で仕切られた9メートル四方の野外スペースに置かれた丸く平らな白い石。人ひとりがちょうど寝そべれるサイズのその石の近くには、作者がどのようにこの作品を鑑賞して欲しいかというメッセージが添えられている。安田作品

「この扉の先は天の秘密を感じる世界です。どうぞ寝転がって宇宙を見上げてください」。そう書いてあるならと、早速扉を開き、「靴を脱いで」という注意書きに従い、すべすべした白い石の上に寝転がってみる。するとそこには建物壁によって切り取られた四角く青い空が見えた。その「額縁」によって切り取られた夏空には白い雲が浮かんでおり、空はどこまでも高く美しかった。

きっとそれは世界で最も美しい作品であり、その作品は一時も同じ表情を見せることなく、人類が生まれる以前より多様に変化し続けていただろうし、これからも変化し続けていくのだと思う。そしてその青を突き抜けていった先には、何億光年といったレベルの宇宙の闇が存在し、たまたまその一瞬、地球上の直島の美術館に展示された白い石に寝転がった一つの生命が、遠くから響く蝉の声を聞きながら、その永遠性について思いを馳せる。
夕日

それは決して日常では感じることのできない『天秘』であり、まるで何事もなかったかのようにそのことをそっと教えてくれたその石と、その石に『天秘』というコンセプトを込めた安田侃という制作者の名前は決して忘れないと思う。自分の中で『天秘』と体験する前と後では価値観を大きく変えてしまったその作品が、自然と芸術の融合というコンセプトを持った「直島」や今回の芸術祭を最も実感できる作品となった。

ベネッセハウスミュージアムの2階テラスから眺める夕日は、瀬戸内海に無数の光を反射させながら、水平線の向こうへとゆっくり沈んでいった。星が浮かんだ空の下で、今日最後のアート体験となる『I湯』へ向かう自転車のペダルを漕ぎながら、湯船にゆっくりとつかって風呂場の仕切りの上に展示された北海道の秘宝館から連れて来られたという象の「サダコ」の卑猥な部分でも見てやろうと思った。
その1に戻るその2に戻る犬島の記事へ進む

ウィキペディア デイヴィッド・ホックニー
ウィキペディア イヴ・クライン
ウィキペディア 柳幸典
柳幸典さんのウェブサイト
ウィキペディア 安田侃
安田侃さんのウェブサイト
ウィキペディア 秘宝館

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阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメールabekaheki@gmail.com
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